どんなピンチでも全力で野球を楽しもう−。それが京都共栄学園高校硬式野球部の「エンジョイベースボール」。初の甲子園まであと2試合。夢物語ではなく目の前にあっただけに、延長15回サヨナラ負けは悔し涙が止まらなかった。でも「全員で楽しめた」。
昨秋、46人の新チームになったときはみんなバラバラ。3年生の南海星主将は「全然チームがまとまらなかった」と振り返る。
転機は昨年12月。植村則昭監督が体調不良で1カ月間指揮をとれなくなった。一人ひとりが変わらないと駄目と、部員たちの意識が変わり始めた。グラウンドに戻った植村監督はチームの変化に気づいた。
試合中、共栄ベンチやスタンドからは同じフレーズの声援が飛ぶ。「エンジョイベースボールや!」「楽しめ、楽しめ!」
「エンジョイベースボール」は、ただ単に「野球を楽しむ」ではなく、「全力を尽くすからこそ楽しめる」ことを指す。藤原隆行部長は「以前は楽しむことの意味をはき違えていたけれど、今は全力を尽くしてこその意味をみんながわかっている」と力を込める。
共栄ナインは、試合前に必ずやることがある。じゃんけん遊びの「あっちむいてほい」。気持ちを高めてリラックスできるようにと3月に取り入れ、初実践の練習試合でそれまでにないプレーが飛び出した。魔法にかかったように気持ちが高ぶり、野球がもっと楽しくなった。
準決勝は40年ぶりの大舞台となったが、「あっちむいてほい」で、いやな緊張はなく、笑顔すらこぼれた。
今大会は7月15日の初戦2回戦から計5試合を戦った。エンジョイベースボールを貫き、1試合ごとにチームは成長した。
大一番の準決勝立命館宇治戦は、今年の春季大会準々決勝のリベンジ戦。あの時は1−6で負けたが、今回は互角にわたり合った。
抜ければ長打となる痛烈な直飛球をジャンプキャッチする内野、深い当たりの球を追い全力疾走する外野。2人の投手の力投。それを支えた捕手。勝負には敗れたが、植村監督は「今大会、仲間を信じて、子どもたちは変身しました。きょうは200点満点です」と自慢した。
試合を終えて、止まらない涙をこらえながら南主将は「みんな仲良くていいチームでした」と胸を張った。主戦の3年生、浅井海翔投手も「みんな仲良くて楽しく野球ができました。ピンチも苦じゃなかった」と涙目を細めた。
エンジョイベースボールは、残る1、2年生に引き継がれる。「僕たちを超えて甲子園にいってほしい」。願いを託し共栄ナインの夏が終わった。
写真=エンジョイベースボールを貫き準決勝前に円陣を組む共栄ナイン
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