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両丹日日新聞2014年3月17日のニュース

台風18号:水害半年 復旧進める人びと(下)

0317suigai.jpg 福知山市大江町や西中筋(石原方面)など、被害が大きかったところに以前から住む人たちは、これまで何度も水害に遭い、そのたびにやりきれない思いを重ねてきた。地元の米を使った米粉パンを作り、教室を開いたり、保育園に届けたりしている戸田の佐久本仁美さん(43)は「水害の後、しばらくは好きなことも手につかなかった。気持ちがふさぎこむことも少なくなかった」と振り返る。

■自分自身の回復 あせらず待った■

 佐久本さん一家は当時、これほど大きな水害が起こるとは予想できず、父親に留守を任せて外出していた。帰ってくると、戸田全体が水没していた。ひざあたりまで水がある中、ようやく自宅付近にたどり着いたのは16日の夕方だった。

 自宅の敷地に「お米ぱん工房」の作業場と販売する小屋を設けていたが、全て水につかった。小屋は濁流の勢いでゆがみ、自動車も工房内の機材も使えなくなった。

 「これまで大雨の予報を聞いたときは、ロープで小屋と家の柱をくくりつけていましたが、今回はできていなかった。流されてしまわず、他のおうちの迷惑にならなかっただけでも良かった」

 しばらく不自由な生活が続いたが、友人たちが助けてくれた。優しい声、勇気づける言葉をいっぱいもらった。

 小屋はクレーンでつり上げて直してもらい、工房の機材も徐々に整えた。工事は年内に終わった。

 でも、気持ちが元に戻らない。自宅に一人でいると落ち込んだ。「自然と(パン作りを)やりたいと思えるまで」。あせらずに自分自身の回復を待った。

 被災から4カ月が経って、保育園に納める給食のパン作りを再開した。機材の調子が悪く、不安を抱えたスタートだったが「喜ぶ子どもたちの顔を見て、吹き飛んだ」。

 2月には延期にしていた親子パン教室を、土(つち)地区の工務店で開いた。パン作りを通じて広がる笑顔に「やってよかった」と思えた。少し時間はかかったが、前向きな気持ちを取り戻すことができた。

 地元の米や野菜にこだわり作っているが、今は十分な食材がそろいにくいため、家での販売は来年くらいを目安に再開できればと考えている。

■気持ち上を向くきっかけを 大江でコンサート■

 15日夜、大江町ではたくさんの人が自動車を高台へ避難させ、大雨に備えたが、多くの家屋は深刻な被害を受けた。「『水害』と聞くだけで気持ちが滅入る」。家具を撤去したあと「台風が来たら、どうせまたつかる」と、買わずに代用品で済ませている人もいる。

 町内の個人商店は、徐々に再開していったが、そのまま閉めてしまったところもある。「今度つかったらやめる」と決めている人も。人々はまだ、不安とともにいる。

 河守に住む伊田さなえさん(30)は水害後、市内外の友人たちに呼びかけ、蓼原や河守新町を中心に泥だしなどのボランティアをしたり、家具を募って希望のあった家に贈ったりしてきた。

 そうした活動を続ける中で「大江町を少しでも元気づけたい。町の人に前向きな気持ちを持ってほしい」と、ジャズコンサートを計画した。「元気が出るパワフルな曲」を届けようと、思いをともにするメンバー5人で、1月から話し合いを重ねてきた。

 大江町天田内の常光寺で、5月31日午後6時から開演予定。プロのギタリスト・山口武さんやジャズシンガー・増田幸代さん=ともに大阪在住=が出演するほか、地元の大江高校のジャズバンドなどとのセッションも予定している。

 伊田さんは「今の福知山は水害や花火大会の事故などの悲しい出来事で落ち込み、沈んでいる感じ。何をしたらいいのか、今やっていいのか、迷いましたが、気持ちが上向きになるきっかけ作りになればと思うので、いろいろな人たちに足を運んでほしい」と思いを込める。おわり


写真=佐久本さん宅の小屋には、いまだにうっすらと泥の跡が残り、濁流のすさまじさを刻んでいる

    

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